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東京高等裁判所 昭和39年(う)920号 判決

控訴人 被告人 小黒七郎

弁護人 久保田昭夫 外一名

検察官 鈴木久学

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人久保田昭夫及び同村野信夫が連名で差し出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断をする。

論旨二について

本件犯行の現場が終日駐停車禁止区域内の地点であることは、所論の指摘するとおりであるが原判決がかかげている証拠によれば、右現場は駐停車禁止区域内の地点であるとはいうものの、右区域の終点に当つている交差点のすぐ前方であり、僅かに前進して右交差点を越えさえすれば、極めて容易に、午後八時以後は駐停車禁止を解除されている区域内に入ることができることが明らかであるから、このような場合には、タクシー運転者は、タクシー業の公共性にかんがみ、たとえ、乗車の申込みを受けた場所がたまたま駐停車禁止区域内の地点であり、従つて、その場で直ちに客を乗車させることはできないとしても、右乗車の申込みに応じ、乗客を誘導して駐停車が禁止されていない区域内に入つた上、これを乗車させるのが相当であり、乗車の申込みを受けた場所がたまたま駐停車禁止区域内の地点であるという一事により、その運送の引受けを拒絶することは許されないものと解すべきである。又道路運送法第一五条第七号、自動車運送事業等運輸規則(昭和三一年運輸省令第四四号)第一三条によれば、一般乗合旅客自動車運送事業者は泥酔した者又は不潔な服装をした者等であつて、他の旅客の迷惑となるおそれのある者の運送の引受又継続を拒絶しなければならないとされているが、右は道路運送法第三条第二項第一号にいわゆる一般乗合旅客自動車運送事業、すなわち路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客を運送する一般自動車運送事業に関するものであり、タクシー業者は同法第三条第二項第三号にいわゆる一般乗用旅客自動車運送事業、すなわち一個の契約により乗車定員一〇人以下の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般自動車運送事業であるから、右規定はタクシー業者に対しては適用がないものというべきである。

従つて、被告人が乗車を拒絶したのは正当事由によるものであるとする論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 加納駿平 判事 河本文夫 判事 清水春三)

弁護人久保田昭夫外一名の控訴趣意第二点

被告人の行為は、法定除外事由に当り、不可罰であるにもかかわらず、この事実を認めなかつた原判決には、事実誤認がある。

(一)道運法第一五条第五号にいわゆる当該運送が、「法令の規定、又は公の秩序」若しくは善良の風俗に反するものであるとき乗車拒否出来るのであるが、被害者大谷が、乗車を申し込んだ道路の位置は、終日駐停車禁止区域であるところであるから、したがつて被告人の拒否は、法令の規定又は公の秩序に違反しないようになされたもので正当なものである。にもかかわらずこの前提事実を認定しなかつた事実誤認がある。

(二)さらに同条第七号にいわゆる省令で定める正当事由があつた。つまり、自動車運送事業等運輸規則(昭和三一年運輸省令第四四号)の第一三条にいうところの「客が酔つ払つている時」の申し込みにあたるもので、これを拒否しても正当事由があることは明らかである。にもかかわらずこれを認定しなかつたことは事実の誤認あること明らかである。

(その余の控訴趣意は省略する。)

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